楽曲編成 |
忘らるる、身はいつしかに浮草の根から思ひの無いならほんに。誰を恨みんうら菊の、霜にうつらふ枯野の原に、散りも果てなで今は世にありてぞ、辛き我夫の。あしかれと、思はぬ山の峰にだに。 人の嘆きも生なるに、況んや年月思ひに沈む恨みの数、積りて執心の、鬼となるも理り。 いでいで恨みをなさんと、しもつと振り上げ、うはなりの髪を手にからまいて、打つや宇津の山の、夢現とも分ざる浮世に、因果は巡り合ひたり、今更さこそ悔しかるらめ、さて懲りや思ひ知れ、殊さら怨めしき、仇し男を、取って行かんと臥したる枕に立ち寄り見れば、恐ろしや幣帛に三十番神ましまして、魍魎鬼神は穢はしや、出よ出よと責め給ふぞや、腹立ちや思ふ夫をば取らであまつさへ神々の、責を蒙むる悪鬼の神通、通力、自在の勢絶えて、力も弱々と、足弱車の廻り合ふべき。時節を待つべしや。 先づ此度は帰るべしと、いふ声ばかりは定かに聞え、いふ声ばかりは聞えて、姿は目に見えぬ鬼とぞなりにける。
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