楽曲編成 |
思ひにや、焦れてすだく蟲の声々さ夜更けて、いとど淋しき野菊にひとり、道は白菊たどりて此処に、 誰をまつ蟲亡き面影を、慕ふ心の穂にあらはれて、萩よ薄よ寝乱れ髪の、解けてこぼるる涙の露の、かかる思ひをいつさて忘りよ、兎角輪廻の拙きこの身、晴るる間もなき胸の闇、雨の降る夜も降らぬ夜も、通ひ車の夜母に来れど、逢ふて戻れば一夜が千夜、それそれ、それじやまことに、ほんに浮世がままらなば、何を怨みんよしなし言よ、桔梗、刈萱、女郎花。 我も恋路に名は立ちながら、一人まろ寝の長き夜を、面白や、千草にすだく蟲の音の、機織る音のきりはたりてふ、きりはたりてふ、つづれさせてふ、きりぎりす、ひぐらし、いろいろの色音の中に、分きて我が忍ぶ松蟲の声、りんりんりんりんとして、夜の声めいめいたり。すはや難波の鐘も明け方の、朝間にも成りぬべし、さらばや友人名残の袖を、招く尾花もほのかに見えし跡たえて、草茫々たる阿倍野の塚に、蟲の音ばかりや残るらん、蟲の音ばかりや残るらん。
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