楽曲編成 |
牡鹿鳴く、この山里と詠じけむ、嵯峨のあたりの秋のころ、千草の花もさまざまに、虫の恨みも深き夜の、月に松虫招くは尾花、萩には露の玉虫や、そよぐをぎ虫くつわ虫、鳴く音につれて仲国が、寮の御馬賜わりて、宿直姿の藤袴。 たづぬる人の面影に、立つ薄霧の女郎花、それからあらぬか幻の、 蓬が島根たづねわび、駒引きとむる笹のくま、やすらふかげの松風に、通ふ爪音つま恋ひの、音による鹿にはあらねども、昔おぼゆれ笛竹や、合わす調べにまがひなき、声をしるべにしたひよる、 嵯峨野の奥の片折戸、想夫恋の唱歌は、比翼の翅の雲井恋ひ、盤渉調の調べは、松の連理の枝にかよふ。 小督の局、世をしのぶ住家も、あすは大原に、かへん姿の名残りとて、夜半に手ならすつま琴の、岩越すおもひせきかねて、涙に袖をかしはばや、人目もいかがあやめがた、糸の色音をしるべにて、さし入る月の雲井より、御使にまゐりしと、かしこき君のみことのり、野辺のおち方わけ来つる、露の玉草さしよする、妻戸の端の縁の綱、またひき結ぶ御かへりごと、添へて賜わる五衣、きぬぎぬおくるほどもなく、迎ひの車たてまつり、昔にかへるももしきや、千代を契りの松の言の葉。
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